物・語りの『ユリシーズ』―ナラトロジカル・アプローチ

『ユリシーズ』は物語ではなく「物・語り」である。通常、「物」は自ら言葉を発することがなく、一方的に「語られる」存在である。植民地支配によって本来の言葉と文化を奪われた人々、政治的・宗教的迫害によって故郷を追われた人々、父権性社会の下で「声」を失った女性たち、帝国主義戦争で倒れた無名の兵士たち。彼らは自らについて語ることができない「物」として生きた。ジョイスが二十歳そこそこで捨てた故郷アイルランドは、そのような人々の声なき声に満ちていたのである。モダニズムの代表作を精緻に読み解く気鋭の論考。

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